家に辿り着くと玄関に引き摺り込まれ、しっかり鍵が施錠される。
「手、離せよ…」
「嫌です」
繋がれたままの手をぐいっと引き、身体を引き寄せると細い顎を捕えた。
「ま、てって!」
「待てません」
衝動のままに、顔を寄せ、唇を狙う。
「んんっ…ふ…ぁ…」
何度か啄ばむように軽く口付けると、宗一の唇が薄らと開かれた。
開かれた唇に、今度は深く口付けて舌で舌を絡め取る。
強弱を付けて吸い上げ微かな水音が聞こえ始めると、宗一の身体から力が抜ける。
「…ください」
キスの合間に森永が囁く。
「…なに、言って」
「俺に、先輩をください」
言って、もう一度唇を狙おうと顔が近付く。
「…解ったから、落ち着け」
胸をぐいっと両手で押されて、少し離れると伏し目がちな宗一の姿が目に入る。
耳まで赤く染め、目はもう潤んでいて。
見惚れて、無意識に唾を飲んだ。
「…風呂、入ってくるから」
「…はい」
「…俺が出たら…お前も入れよ」
真っ赤なまま森永を押し退けるとそのまま脱衣所の駆け込み、
扉がバタンと閉められた。
「…余裕ないなあ、俺」
はあ、と大きな溜め息を吐き、前髪をぐしゃりと掻き上げる。
両手で自分の顔を覆うと、熱でもあるかの様に熱い。
一旦落ち着こうと自分も靴を脱いで部屋に入り冷たい水を飲んで頭を冷やす。
暫くして、きっちりパジャマを着込んだ宗一が
湯あがりの良い香りを漂わせながら風呂から出てきた。
ほんのり、桜色に染まった肌に理性を奪われそう。
自然と動いた手が、長い髪を捕えた。
びくりと宗一の体が跳ねる。
「…な、なんだよ」
「髪…まだ少し濡れてますね」
滴を湛えた髪に触れると水滴が指に付いた。
「その内乾く…」
「風邪引きますよ」
言って、洗面所から持ってきたドライヤーを手渡すと、
「本当は乾かしてあげたいけど俺も余裕ないんで。
すぐ出てくるから、乾かして待っててね」と笑顔。
「…っ」
居た堪れなくなって、もう部屋に戻ろうかと一瞬考えたけれど、
なんとか踏みとどまり髪を乾かす。
手櫛で整えながら、心を落ち着かせようと関係の無い事を
ひたすら考えていたら扉がガラッと開く音がした。
それに続いて足音。
「あれ?まだそこに居たの?」
「髪…乾かせって言ったのお前だろうが」
「…そんなに俺、出てくるの早かった?」
時計をちらと見遣り「あ。ホントだ」なんて他人事のように呟く。
「自覚なかったのかよ!」
「仕方ないでしょ?この状況なんだから」
唇を尖らせた森永は、昼間とは違い熱に浮かされたような目をしていて。
思わず顔ごと視線を逸らすと、再び手を取られた。
「先輩…俺の部屋、行きましょうか」
顔から首、いや見えてる範囲が真っ赤だ。
緊張してるのかな?でも小さくだけど頷いてくれた。
赤面は伝染するのか、森永の顔もほんのり赤い。
手を繋ぎ、ぎくしゃくした足取りで二人、部屋に入る。
ベッドに並んで座るとしん、と静まった部屋に緊張が走った。
そっと、森永の掌が、俯き気味の宗一の胸に触れる。
「心臓の音、すごいよ?」
「いちいちうるせえ…」
「ごめんごめん。でも俺も同じだから」
抱きしめると、二つの心音が重なってなお一層、鼓動が早くなる。
最早自分の心音なのか、相手の心音なのか良くわからない。
「キス、してもいい?」
「………」
少しだけ離れ、もう一度キスをすると森永の手が宗一の肩に掛かった。
それを払い落し、俯き気味のまま宗一が自ら服に手を掛ける。
思いがけないことに森永の脳はフリーズ状態で。
「え、嘘…」
「別に…服くらい脱げる…」
…指先、震えちゃってる。
何回してもこの行為が恥ずかしいのか、慣れない先輩。
それでも懸命に俺に合わせようとして。
可愛くて、このままぎゅっと抱きしめて、押し倒して。
いつもみたいにしたい気持ちと、自分でして欲しいという気持ち。
森永が頭の中でぐるぐる考えている間にも、ボタンは外れていく。
おずおずとパジャマのボタンを外し終わった宗一が、
森永の視線に気が付いてキッと睨んだ。
「あんま…じろじろ見てんじゃねーよ」
「見たらダメ?」
「ダメ、って言うか…」
「好きな人の身体なんですよ?見たいに決まってるじゃないですか」
「…お、おまえもさっさと脱げよ!」
「脱がせてくれる?」
「な…っ」
手を取り、ちゅっと口付けて、もう一度懇願する。
「上着だけでもいいから。お願い」
「…くそっ」
震える指先が、今度は森永のパジャマのボタンに掛かる。
一つ、また一つと外れ、最後の一つが取れた瞬間。
堪らなくなって口付けた。
「ん…んっ」
唇が離れれば、口が勝手に愛を囁く。
「…好きですよ」
「そればっかだな…」
「本当の事だから仕方ないでしょ。ほら、後は任せて?全部脱がせてあげる」
宣言通り、手早く着ていた物を脱がされた宗一の上に
森永が覆いかぶさった。
「綺麗…」
うっとりとした声に続き、滑らかな肌の上を森永の手が滑る。
「男の体に…んっ…綺麗も何もねーだろっ」
「自覚無いのは結構ですけど…」
淡く色づいた胸の突起を押しつぶすように摘まむ。
「んあっ」
声が漏れ、触れたそこは次第に尖ってきて。
与えられる潤んだ目を覆い隠すみたく睫毛が伏せられた。
「…俺だけ知ってればいいか」
いつもストイックで、清廉な彼が、蕩けたように惚ける姿。
「…誰にも見せたくない」
胸への刺激はそのままに、鎖骨から項までゆっくり這うようなスピードで舐め上げ
耳殻に軽く歯を立てると面白いくらい身体が跳ねた。
「可愛い…」
「う、るさぃ…」
手は、胸から次第に下へと動き、いつの間にか太股を撫でまわす。
そっと足が割開かれて、繋がる箇所が露わにされた。
自然と立ちあがり、薄らと涙を零し始めた先端を指で擽る。
感じやすいそこに触れる度に宗一は身を捩り、指先はシーツをぎゅっと掴んで。
刺激すればするほど蜜をだらだらと零すそこで指先を潤わせた。
「ナカ、解すね?」
指の腹で蕾んだ入口を擽るように撫で、馴染ませたところで中に指を咥えさせる。
感じるところを探り当て、そこを指で刺激してやると堪らないのか小刻みに身体が震えた。
「ぅっ…んくっ…ぁ、あ…」
「先輩のここ、すごく感じてくれてるよ」
「うッ…るさ…い…バカ…」
「意地っ張り」
ゆっくりと指を増やし、吐精させたところで指が引き抜かれる。
足を抱え上げ、早く中に入りたいと濡れ光る自身を繋がる箇所に押し当てた。
「お腹の力抜いててね」
「んっ…っぅ、く…ッ…」
何度行為を重ねても、この瞬間だけは未だに慣れない。
熱い塊に押し広げられる感覚に、思わず森永の背中にしがみ付く。
「ぅあ、あっ!」
全部が埋め込まれたのか、森永の動きが止まり、中でドクドクと脈打つ感覚。
異物感に眉が寄り、汗が噴き出た。
「…大丈夫?」
懸命に息を整えようとする宗一の顔を覗きこみ、表情を伺う。
次第に呼吸が落ち着き、目が開かれた。涙を湛えたそれは壮絶に色っぽい。
そして、僅かに頷いた瞬間。
「動くよ?」
抽挿が始まり宗一の手が森永の背に爪を立てる。
「っふ…ぅあっ…ぁ、んんっ」
「先輩…」
微かな痛みすら幸せに感じながら、呼吸を合わせ、腰を打ちつけ中を掻き回す。
時折視線が絡み合い、堪らなくなってその度に唇を貪った。
繋がった箇所から溶けてしまいそう。
自然と汗が滴り落ち、真下に居る宗一に降り注ぐ。
滑り落ちていくそれは混ざり合い、どちらの汗か解らなくなった。
次第に、宗一の身体がびくびくと震えだす。
それに伴って、更に激しく揺さぶられて。知らず、目からは涙が零れ落ちていた。
「や、っ…や…ぁ…!」
目尻の涙の後を舐められ、深く突き挿れられた瞬間。
「ぁ、あ、ああっ!!」
視界が霞み、目の前が真っ白になる。
吐精に連動し、痙攣じみた締め付けをした宗一の中の動きに搾り取られ
森永もまた果てた。
「せんぱい…好き…」
顔中にキスを落とし、それだけじゃ飽きたらず首筋にまでキスをして
気が済んだのか宗一の中を一杯にしていたものが
ずるりと引き抜かれた。
「大丈夫ですか?」
「…じゃ、ない」
くたっと力が抜け、苦しげに呼吸をする姿に愛おしさ覚えて。
もう一度抱きしめていたら、薄らと宗一の目が開かれた。
僅かに開かれた唇が、懸命に何かを言おうとする。
「まだ…言って、なかったよな…」
「ん?どうしました?」
「……誕生日、おめでと…」
「……ありがとう。………あれ?」
言い忘れた事を言うと、気が抜けたのか意識を飛ばしてしまったらしい。
誕生日だからって、こんなにわがままを聞いて貰えるなんて思ってもみなかった。
先輩の性格を考えれば、無茶なお願いばかり。
でも懸命に応えてくれるのが嬉しくて、どうしようもなく幸せで。
全ての気持ちを込めて、強く、でも壊れないように抱きしめる。
「大好きですよ先輩…。ずっと傍に居てくださいね」
自分の体に体重を預け、安心したように眠る宗一の頭を優しく撫でて、そっと口付けた。
…甘やかし過ぎですよ。宗一さん。
書いておきながら舌打ちをしつつこの辺でお誕生日SSを終わります。
ここまでお付き合いありがとうございました♪